中学3年。それは、一般的に見て「子供」だろうか。それとも、もう「大人」だろうか。
法的に考えれば「未成年」というわけで、「子供」だと判断できるかもしれない。でも、年下の子からすれば、私たちは「大人」に見えるかもしれない。例えば、1年生の金ちゃん。金ちゃんなんかは、私たち3年のことをそう思ってくれるんじゃないかな。
・・・だけど、それじゃ意味が無い。早く大人になりたいってわけじゃないけど。少しでも近づきたいから。
そんなことを考える私は、やっぱり「子供」なんだろう。大人からすれば、「そんなことを考えられるのも子供の内だけだよ」とでも言うのだろうか。でも、今の私はそうじゃないと思っている。この先も同じようなことを考えると思う。・・・それぐらい、今は真剣だと思ってるんです・・・・・・。



「今日も暑いなぁ・・・!」

「はい、先生。」



そう言いながら、私は自分と10以上も歳の離れた、目の前の人にドリンクを渡した。
歳だけじゃない。立場的にも全く違う、私の所属する部活の顧問の先生だ。



「おぉ!おーきに。・・・はホンマ気が利くわ〜。」

「今のはの気が利いてる言うよりも、オサムちゃんがわざとらしかったわ。」

「何言うてんねん、白石ー。そんなことないわ。なぁ、!」

「私の気が利くかは別として・・・先生はわざとらしくなんか無かったです。」

「ほらな!・・・いや、でも、ちゃんとは気が利いてんで?そやから、1コケシやろう。おお、やろう。」

「そんなん誰も欲しがってへんやろ、オサムちゃん。」



白石くんだけじゃなく、部員の誰もが同じようなことを言う。でも、私は違う。



「やったー!ありがとうございます、先生。」

「うん、は素直なところがええわ。」

・・・無理せんときや?」

「してないってば。」



私は笑いながら、白石くんにそう言った。
・・・だって、私は渡邊先生のことが好きなんだもの。それは許されるものじゃない。この想いを伝えようとすれば、必ず先生に迷惑がかかる。それでも、本気だから・・・せめて、勝手に想うだけは許してほしい。



「そや、の言う通りやで。このコケシはなぁ、10個集めると・・・それはそれは素敵なプレゼントがあるっちゅう話や。」

「話って・・・自分で考えたもんやろ。」



すかさず白石くんのツッコミが入ったけれど、私はそこじゃないところが気になってしまった。



「プレゼントですか?!」

「そう。中身は秘密やけどな。」

「どうせ、まだ何も考えてへんかったんやろ?」



またも白石くんの的確なツッコミが入れられるけど、やっぱり私にとってはそんなこと、全然問題にはならなかった。だって、先生から何かを貰えるかもしれない。具体的な“何か”が欲しいってわけじゃなくて、先生から貰えるから欲しいと思う。先生から貰えたら、ずっと大事にしたい・・・なんて方向に、私の頭は考えてしまっていた。



「さぁ?それは言われへんわ。」

「言われへん、てことは考えてへんかったって言うてるもんやで、オサムちゃん。」

「白石ー。さっきから、えらいツッコむな〜。何かあったんか?」

「何も無いわ。ただ、はオサムちゃんを甘やかし過ぎやから、俺がしっかり言うとかなアカンと思てるだけや。」

「先生を甘やかす、って可笑しいでしょ?・・・それで、先生。私、今までちゃんと数かぞえてなかったんですけど・・・どうしたらいいですか?」

。それが甘やかしてるって言うてんねや・・・。」

「あぁ、大丈夫や。俺がちゃんと覚えてんでー。・・・え〜っとなぁ・・・今、はちょうど8個目や。あと2つやでー。頑張りや〜。」

「はい、わかりました!」

「・・・絶対、今のも適当やわ・・・・・・。」



たしかに白石くんの言う通り。甘やかす、という表現はどうかと思うけど、実際に私は先生の言うことなら、大概は聞いてしまう。・・・だって、好きなんだもん。
それに、さっきのだって、先生は本当に覚えていてくれたわけじゃないだろう。でも、どこかで、ちゃんと私のことを気にしてくれていたとしたら・・・と期待してしまっている。それもこれも、私は渡邊先生が大好きだからだ。
・・・決して届くことのない、叶うことのない恋だとしても。

それから、私はその8個という数字を忘れずに、何事もいつも以上に頑張っていた。でも、意識するとなかなか貰えないもので・・・。先生もプレゼントがあるなんてことを言ってしまった手前、すぐに10個集まったら困るとでも思ったのかもしれない。
だけど、絶対に集めるんだから!と気合を入れ直し、部活も授業も精一杯取り組んだ。そんなある日・・・。



ー。」

「はい、先生!」

「ちょっと。」

「?」



疑問に思いながらも、椅子に腰掛けて、部員の様子を見ていらっしゃった先生の方へ向かった。すると、先生は自分の隣をポンポンと叩かれた。



「ここ座って?」

「・・・はい。」



まだ首を傾げながらも、私は先生に言われるがまま、先生が座っている椅子の横へ腰掛けた。
・・・結構距離が近くて、ドキドキする・・・・・・。



。最近、頑張り過ぎやで。・・・なんや、無理してへんか?」

「え?そんなことは・・・。」

「ない??」



私の言葉を遮って、そう言われたあと、先生は私の頬に手を当てられた。
少し気持ちいいとも思ったけど、それ以上に・・・。大好きな先生に、こ、こんなことを・・・!!と動揺する私に対して、先生は心配そうに仰った。



「ほら。ちょっと顔熱ないか?」



それは・・・今、先生とこんなにも近いからです・・・!と思ったけど、そんなことを言えるわけはないので、あくまで正当そうな理由を述べた。



「暑い中活動していれば、自然と体も熱くなりますよ。」

の言う通り、今は気温も高い。そやから、無茶はアカンのや。熱中症にでもなったら、どないすんねん。大事な大事なが休むことになったら、先生はもちろん、部員のみんなも悲しむで。」

「大丈夫ですよ。マネージャーとして、ちゃんと自己管理はしているつもりです。」

「いや、アカン。今日はちょっと休んどき。監督命令や。」

「でも、先生・・・!」

「はいはい、ええから。部室に行っときー。」



そう言って、先生は椅子から立ち、私の背中を押した。
心配していただけるのは嬉しい。でも、私は今日も頑張ろうって思って・・・。それに、みんなも暑い中頑張ってるのに、自分だけ呑気に休むわけにはいかない。
先生に押されながらも、私はまだ抗議する。



「けど、先生。みんなだって、頑張ってるじゃないですか!」

「そやけど、ちゃんと休むときは休んでんで。」

「私だって・・・。」

「はい、着いた。ちゃんと休むんやで?部室の掃除でもしようもんなら、コケシも没収や。」

「先生・・・。」

「ちゃんと休むことも立派なマネージャーの仕事やで。」

「・・・わかってます・・・・・・。」

「そないな顔しなや!ほら、ちゃんと休んだら1コケシやるから、な?」



拗ねたような私に向かって、先生は少し慌て気味にそう仰った。それが可笑しくて、ふっと吹き出してしまった。それに、頑張って1コケシを貰おうとしていたのに、休んで貰えることになるなんて・・・。何だか、変だなぁ〜って考えると、ちょっとだけ頭が冷えた。



「わかりました。では、御言葉に甘えて・・・。ありがとうございます、先生!」

「うんうん、素直が1番やで。」



・・・しかも、今度は頭をよしよしと撫でてもらった。・・・・・・正直に言って、嬉しすぎる。
その感触を思い返しながら、部室の椅子に座って机に顔を伏せた。すると、気持ちが良くなって、気付けば私は・・・・・・・・・。



「・・・・・・ん・・・。」

「お。目、覚めたか?」

「!!」



いつの間にか、スヤスヤと寝てしまっていたらしい。そして、起きようとした私の耳に入ってきたのは、間違いなく・・・。



「先生!」

「おはよーさん。」



私は飛び起きながら、向かいの椅子に座っていた先生を見た。



「あ、おはようございます・・・って、違いますよ!今、何時ですか?部活は?!」

「もうみんな、とっくに帰ってしもたで。」

「だったら、どうして起こしてくださらなかったんですか?!」

「だって、今日はもう休んどきーって言うたんは俺やからなぁ。ちゃんと先生の言うことを守ってる生徒を見守らんわけにはいかんやろ。」



見守るって・・・。まさか・・・。
徐々に頭も冴えてきて、私は急に恥ずかしくなった。



「その・・・。私、変な寝言とか言ってませんでした・・・?!」

「んー?そうやな〜・・・。そういえば。」

「な、何ですか?!」

「もう、こんな時間やし、1人で帰るんは危ないやろう。」

「・・・って、話を逸らさないでください!!」

「大丈夫や、安心しー。何も言うてへんかったで。・・・と言うか、先生もさっき来たとこや。」



先生は私をからかうように、そう仰った。そして、次は普通に話されたのだけど・・・。私にとっては、それもからかいなんじゃないかと思うぐらい、驚くことだった。



「それで、話は戻るけど・・・。外はもう結構暗いで。」

「そうですね・・・。ですから、早めに起こしてくださればよかったのに・・・。もちろん、寝てしまった自分の所為なので、自業自得だとは思いますが。」

「でも、そもそも休むよう言い出したんは先生やからなぁー・・・。よし、わかった。特別に先生の車で送ったるわ。」

「・・・え?」

「と言うか、送らんくてに何かあったら、先生の責任や。そやから、が何と言おうと送るからな。」



先生が少し意地悪そうにニヤリと微笑まれた。・・・そういうところも、素敵なんですよ。
なんてことを考えながらも、丁重にお断りする。だって、そんな大好きな先生と、車の中で2人きりなんて・・・緊張するに決まってるもの!



「大丈夫です。一人で帰れますから。・・・それに、さっきも言ったように、こんな時間まで寝ていたのは自分自身の所為なので・・・わざわざ先生の手を煩わせてしまうわけにはいきません。」

「そう言うんやったら、ちゃんと先生の言うこと聞いて、駐車場行くで。」

「先生・・・!!」

「ほな、さっさと片付けて、はよ行くで。先生の手を煩わさんとってやー?」



にこやかにそう言われ、結局私は先生の車で帰らせていただくことになった。・・・・・・本当、幸せすぎますよ・・・!!



ー。道わからんから、どこ曲がるとか言うてなぁー?」

「はい。・・・その・・・本当にすみません。」

「何言うてんねん。たまには、こうやって生徒と2人きりで話す時間も必要やろ?」



先生の「2人きり」という言葉に思わず反応しそうになる。でも、私たちは先生と生徒。2人きりだからと言って、何かが変わるわけではないと冷静に考えた。



「そういうものなんですか?」

「そや。先生もなかなか大変やで?」

「いいんですか?生徒の前で、そんなこと言って・・・。」



そのおかげで、私も普段と変わらず、楽しく先生と会話を続けることができた。



「ええやろー。も将来、先生になるかもしれへんし。参考にしーやー。」

「でも、こんな言い方は失礼かもしれませんけど、渡邊先生は先生っぽくないですよね。だから、私は参考にできないと思いますよ。」

「先生っぽくないかー?」

「はい。・・・あ、次の道を左です。」

「りょーかい。・・・んで?先生っぽくない、と?」

「あ、いえ・・・。言い方がよくなかったですけど・・・。その、渡邊先生は他の先生方とは違って親しみやすいと言いますか・・・。部員以外の生徒も、渡邊先生のことを名前で呼ぶ人も多いですし。」



ちゃんと、自分の家への道案内もしながら、私は普通に話を続けた。
でも、やっぱり、この状況の所為だろうか。普通の話のはずなのに、先生から返ってきた言葉に、変な期待を持ちそうになってしまった。



「そやなぁー。そう考えると、はちゃんと先生扱いしてくれるし、先生にとっては特別な存在やな!」

「ハハ・・・。私は普通ですよ。」

「そう言い切れるんが、の偉いとこやで。・・・ホンマ、先生はに関われる立場に居れて嬉しいわ。」

「・・・先生。そんなに褒めたって、何も出ませんよ?私には、先生にとってのコケシみたいなものは無いですから。」

「これは1本取られたな!・・・せやけど、そんなつもりで言うたんとちゃうで?先生はホンマにのことを・・・・・・・・・・・・ここは真っ直ぐでええんか?」

「え?あ、はい!真っ直ぐです。」



思わず、道案内を忘れそうになったけど・・・。先生は一体、何と仰るつもりだったのだろうか。先生は私のことを・・・??
違う。そんなわけはない。落ち着いて考えて!・・・私たちは何?先生と生徒だよ?!
・・・でも、普通に考えても、先生が何かを言いかけたことは気になる。



「それで・・・。先生は私のこと、どう思ってくださっているんですか・・・?」

「・・・あぁ、話の続きな。・・・そやから、先生はのことをちょっと特別視してる嫌いがあるわ。それこそ、先生にあるまじきことやけどなー!・・・ホンマ、の言う通り、先生らしくないんかもしれんわ。」

「いえ・・・先生は先生です・・・。」

「・・・そやな。・・・ホンマ、はちゃんと先生のことを先生として接してくれんなぁ!・・・・・・それは、ちょっと寂しくもあるんやけど。」

「先生・・・?」

「さ、そんなには、1コケシや!これで10個やな!・・・初めて揃えたんはやし、また贔屓してしもてるかもしれんなぁ。」



そう仰った先生は、何だか楽しそうな笑いではなかった。・・・苦笑?自嘲?どちらかと言うと、そういう類の表情に見えた。
・・・・・・ねぇ、先生。本当に、これって「普通の話」ですか?



「10個集めた記念として、先生が何でも言うこと聞いたろう!これがプレゼントや。・・・どや、すごいやろ?」



でも、私にはそう思えなくなっていた。だから、少し勇気を出してみる。



「じゃあ、先生。教えてください。先生は私のことを・・・。」

「そや、。先言うとくけど。何でも、って言うても、無理なもんは無理やからな?例えば・・・ほら。今から世界一周旅行に連れてって!とか。」



私が言いかけていたのを遮って、先生はいつも通りの口調でそんなことを仰った。
もう!私のせっかくの努力を無下にしないでください!!
・・・と、少し怒りを感じた私は、思い切り不機嫌そうな声で言い放った。



「さっき、何でも、って仰ったじゃないですか。」

「そやけど、物理的や経済的に無理なもんは無理や。・・・あと・・・・・・・・・。」

「なんですか。」

「立場的にどうしても答えられへん質問にも何も言われへん。」



いつも通りの調子に戻られたはずの先生から、急に真面目な口調でそんな言葉が出てきた。
驚いた私が先生の方を見ても、先生はただ前を見つめたまま、言葉を続けた。



「先生は教師で、は生徒やから。言いたくても言えへんこともある。・・・わかってくれるな?」



それって・・・・・・と、私は自分の都合のいい考えばかりが思い浮かぶ。
でも、そういうことですよね?違うんですか??



「・・・わかりました。じゃあ、先生。さっきの質問、卒業した後だったら訊いてもいいですか?」

「もちろんや。・・・その頃、がまだ聞きたいと思ってたら、の話やけどな。」

「大丈夫です。絶対にそう思ってますから。」

「・・・そうか。それは楽しみにしてるわ!」



本当はちゃんと確認したいぐらい気になるけれど・・・。どうせ答えてもらえないから、今訊いたって仕方がない。モヤモヤはするけれど、淡い期待を抱きながら、卒業式まで待とうと決意した。
けど・・・。



「んで、次はどっちの道や?」

「・・・え?・・・・・・あっ!!す、すみません・・・!!さっきの道を左、でした・・・。」

「それは悪かったなぁ!俺もさっきの道では何も聞かへんかったからなぁ〜・・・。まぁ、聞かへんかったって言うより、聞く余裕が無かったんやけど・・・。」

「先生?」

「そんなこと言うててもしゃーない。焦っても事故してしまうかもしれへんからな。遠回りになっても、ゆっくり行こか。また帰んのが遅なってしまうけど・・・親御さんには、ちゃんと先生から説明するからな。」

「は、はい・・・。お願いします・・・。」

「おぅ、任せとき!・・・・・・そやけど、の御両親にこんな形で挨拶することになるとは・・・今の内にええ印象残しとかんと。



いつもは声の大きい先生が小さく呟いた言葉に、私は何も反応を返さなかった。でも、こんな距離で聞こえないわけがない。先生だって、それぐらいわかるはず。
だったら、わざと・・・?なんて風に気になったけど、どうせそれにも答えてもらえないだろうから、諦めるしかない。それに・・・もう、さっきまでのモヤモヤは無くなったから。それだけで充分だった。













 

長っ!!(苦笑)これって、結構長い方ですよね?と言うか、いい作品なら長くてもいいんでしょうけど・・・。こんな物に最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!(最敬礼)
ついにやってしまいました、初の先生キャラ!(笑)元々渡邊先生は原作時から好きだったのですが、アニメで更に好きになったので、書いてしまいました・・・!
あと、私の中では、先生にツッコミまくる白石さんってのも、結構気に入っています(笑)。

今回、御相手が先生ということで、はっきりさせてはいけないと思い、結末とかは苦労しました。ヒロイン設定も中学生でいいのか、とか・・・。でも、高校生だと渡邊先生との出会いが無さそうだし・・・とか。まぁ、私の書く物なんて、深くは考えずに読むのがいいですよね!(←)

('09/09/02)